放射能時代の食事管理
2011年3月の福島第一原発の爆発事故により、放射性物質はエアロゾルとなって空に拡散し、冷却用に使った海水に混ざって太平洋に流出しました。核実験の時代やチェルノブイリ事故のときも多くの放射性物質が日本に降っていましたが、降下量に関しては今回の事故はスケールが違いました。
初期被曝で危険なのは放射性ヨウ素です。ヨウ素剤がない場合は乾燥昆布1gを食べればヨウ素許容量/日になります。その後は食品に気をつけることになりますが、カリウム、カルシウム、鉄分の摂取がそれぞれセシウム、ストロンチウム、プルトニウムの吸収を妨げてくれます。
始まった生物濃縮
空に飛び散った放射性物質は風に乗って拡散し、雨と一緒に降下していきます。降り注いだ放射性物質を被った葉物野菜の汚染から始まり、汚れた土壌から育った根菜も当然のごとく汚染されていました。おいしそうな果物や季節の野菜も全てが汚染の対象になりました。
海に漏れた放射性物質は海流に乗って、海産物を汚染しています。最初に近海のワカメのような海藻類が放射性物質を蓄積することになります。時を同じくしてプランクトンや小魚が汚染され、それらを捕食する中型・大型魚まで汚染が広がります。
陸上では水を飲み、草を食んだ牛や豚の体に放射性物質が生物濃縮されていきます。海中でも同じことが起こり、そして空でも…。陸、海、空、それぞれの生態系の頂点に向かって生物濃縮が進んでいきます。
蔓延する放射性物質
放射能の拡散は人間の活動を介しても起こります。高度に発達した流通により、汚染の可能性のある牛や豚、食品が精密な検査なしに全国に運ばれ、市場原理に基づき売買されます。
また、警戒区域(福島原発20km圏内)からの未除染物資の持ち出しや、区域内外を行き交う車両による路線・沿線への拡散もあります。より大規模には、全国の自治体で引き受けた福島由来の瓦礫処理によって放射性物質が再び空へ、土へと拡散していく危険性も捨て切れません。
現在のクリアランス・レベル(年間10μSv)を遥かに超えて、一部のマンションやビルの鉄筋、コンクリートから人工放射線が検出されるようになるかもしれません。今、口に運んでいるスプーンに放射性物質が含まれている可能性だって否定できなくなっていきます。
そして、いつの間にか「空気」に「水」に「土」に「海」に、そして「食品」に「日用品」に「建物」にと、放射性物質が当たり前に存在する世界になっていくのでしょう。
外部被曝は回避できるが内部被曝は難しい
放射線による被曝は外部被曝と内部被曝に分けられますが、外部被曝に関しては簡易型の個人線量計(数万円から数十万)があれば、ある程度は避けることができます。
日常的に利用する空間や施設をあらかじめ計測しておくことで、ホットスポットでの被曝を回避できます。もちろん、放射性物質が溜まりやすい水溜まりや側溝、雨樋の下、茂みなどには不用意に立ち入らないことが大切ですし、子供の砂遊びや土遊びもβ線やγ線が計測されていない安全な場所だけにすべきです。
一方、内部被曝への対処はとても困難です。食品検査装置は高価で一般の人が購入できるレベルではありません(数十万から数百万円)。また、検査には専門性と時間を要します。主婦やサラリーマンが検査するには限度があるでしょう。
実際問題、リアルタイムに頼れるのはニュースで流れる食品に関する放射能汚染の報道しかありません。もちろん、自らインターネットにアクセスして、公開されている汚染情報を確認することは必須です。受身の情報だけでは生き残れません。
行政機関による食品の放射性物質検査でも完全とは言えません。時間と手間、測定機材の不足により、全品目の1%しか検査できていないという話も聞きます。また、8ベクレル以下の汚染はND(不検出)扱いとなるので注意が必要です(NDイコール汚染されていないとは限らない)。
内部被曝量は必要カロリーに依存する
内部被曝の危険性を知る方法にベクレル表示があります。ベクレル数が大きければ大きいほど被曝の可能性が高まっていきます。当然、汚染された食品をたくさん食べれば食べるほど、たくさん被曝することになります。
ベクレルの定義をはじめ、放射能に関する基礎的な知識を得たいときは、実践コーナー(時事アラカルト)の放射能からのサバイバルを参照ください。
一日に摂取する食べ物や飲み物の量ですが、各人が必要とするカロリー数に依存しています。マクロビオティックやベジタリアンのような菜食主義は別としても、普通は体格や作業環境に応じて必要な量を食べないと、栄養不足やカロリー不足で体力も落ちて病気になってしまいます。
例えば、必要カロリーが2000kcalの人は一日に1700gの食品を食べなければ体を維持できません(水は含まない)。普通に活動して健康に過ごすには最低限の摂取量です。
カロリーと摂取グラムの換算は1g≒1kcalが目安ですが、全食品の実測値で平均すると1gから1kcal以上の熱量を生み出せるようです(野菜は1gで1kcal以下)。
放射能に汚染された食品の摂取基準としてCODEX(原発事故が発生した国、または核攻撃を受けた国から食品を輸入する際の基準)がよく取り上げられますが、この基準では年間で乳幼児で200kg、大人で550kgの食料が必要と仮定されています。
内部被曝量は栄養バランスに依存する
現在の食生活では、東北に昔あった一升飯のように食事が全部白米だけということはありません。栄養学的に考えて、炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミンやミネラルなどをバランスよく摂ることが理想です。
必要カロリー数(kcal)に対応する摂取量(g)のバランスは大体、炭水化物(45%)、たんぱく質(28%)、ビタミン・ミネラル(25%)、脂質(1%)、その他(1%)の割合です。例えば、1日で総量1000gの食事をすると、それぞれ450g、280g、250g、10g、10gのバランスで摂取するのが理想になります。
それぞれに属する食品を表にしておきます。
炭水化物 |
穀類・芋類・果実類
〔米、小麦、コーン、じゃがいも、さつまいも、りんご、ブドウ …〕
|
---|---|
タンパク質 |
肉類・魚介類・豆類・卵類・牛乳類
〔牛・豚・鶏肉、いわし、マグロ、あさり、大豆、鶏卵、チーズ …〕
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ビタミン&ミネラル |
野菜・茸類・海藻類
〔人参、大根、茄子、ネギ、キャベツ、トマト、椎茸、わかめ、昆布 …〕
|
脂質 |
油脂類・種実類
〔オリーブ油、菜種油、くり、アーモンド、くるみ …〕
|
その他 |
調味料・嗜好飲料・砂糖類
〔塩、コショウ、砂糖、紅茶、コーヒー …〕
|
ほぼ半分を炭水化物が占めていますね。残りは体を作るタンパク質、そしてビタミン・ミネラルその他です。脂質やその他はそれぞれ僅かに1%です。
年齢や体格から摂取ベクレル数を知る
必要なカロリーに相当する食事量を摂っていること、理想的な栄養バランスであることを前提にすれば、放射能汚染の食品から摂取してしまったベクレル数が分かります。
もちろん、食生活は人によって大きく異なるので、正確さには欠けるかも知れません。しかし、概算でも摂取したベクレル数が分かれば、放射能に対する防御を身近に感じられますし、対策も考えられます。なお、摂取ベクレル数を計算するプログラムは少し複雑なので、rpnプログラムにまとめています。
摂取ベクレルプログラムのダウンロード
- 摂取ベクレルプログラムのZIPファイルをダウンロードしてください。
- ダウンロードしたZIPファイルをダブルクリックするとbqfood.objが表示されます。
- bqfood.objを格納したいフォルダにドラッグすると以下のダイアログが出てきます。
- パスワードを入力してください。一致していれば、bqfood.objが解凍されます。
| パスワードの入力 |
+-------------------------------------------------+
| +-----+ |
| ファイル'bqfood.obj'はパスワードで保護されて | OK | |
| います。 パスワードを入力してください。 +-----+ |
| |
| +----------------------+ +-----+ |
| パスワード(P): | | |キャンセル| |
| +----------------------+ +-----+ |
+-------------------------------------------------+
※パスワードは講座サポートのpasteプログラムのダウンロードと同じです。
ここでは、c:\rpnディレクトリにobjファイルが保存してあるものとして説明します。DOSプロンプトを起動して、c:\rpnまで移動してください。以下のrpn式を入力すると摂取したベクレル数を表示してくれます。
使い方は年齢、身長(cm)と体重(kg)、6分類された食品のベクレル数(Bq/kg)を指定するだけです。順に年齢、身長、体重、その後に炭水化物、タンパク質、ビタミン、脂質、その他、水に属する食品の汚染度合いをBq/kgで指定します。
例として、年齢25歳の人で身長が175cm、65kgの人が炭水化物で20Bq/kgの食品を食べた場合の摂取ベクレル数を計算してみましょう。以下のrpn式になります。
13.4343
一日で最大13.4343ベクレルを摂取したことが分かります。
カロリー計算に関する記事は、応用コーナーの基礎代謝とダイエットをご参照ください。
必要カロリー数の計算はベネディクトの式を元に、男性と女性の平均値の1.5倍(生活強度やや低い)で計算してあります。そのため、男性は少し多めに女性は少し少なめに考えてください。
対話型プログラムでの計算
さて、摂取ベクレルを計算するbqfoodプログラムには対話型も用意されています。以下のrpn式を指定することで、データを1つずつ入力できます。
rpn [年齢 身長 体重 炭水化物 タンパク質 ビタミン 脂質 他 飲料] -c bqfood <stdin
基礎データ[年齢]=25
基礎データ[身長(cm)]=175
基礎データ[体重(kg)]=65
1.食べ物[炭水化物 (Bq/kg)]=20
2.食べ物[タンパク質(Bq/kg)]=
:
炭水化物まで入力した例ですが、入力する度に食品の分類が出てくるので、分かりやすくなっています。最後まで入力すると以下のように一日で摂取したベクレル数が計算されます。
6.飲み物[水・飲料 (Bq/kg)]=0
※一日あたりの摂取ベクレル数は最大13.4343です。
摂取ベクレルの例題(サンプル)
例として、不運にも汚染された食品を食べてしまった人の摂取ベクレル数を計算してみましょう。
- 外食で食べたご飯が20Bq/kg
- 牛肉ステーキが300Bq/kg
- ブロッコリーが50Bq/kg
- デザートの梨が30Bq/kg
- 職場で飲んだお茶(お茶っ葉)が50Bq/kg
- 水道水が0.2Bq/kg ※必要な水の量は体重1kgにつき50mlで計算します。
以上の摂取ベクレル数を計算します。なお、年齢は25歳、身長が160cm、体重が45kgの人とします。
142.025
142ベクレルですね。ただし、計算されたベクレル数は最悪の場合です。実際には摂取ベクレル数を評価するためには、それなりに割り引いて考える必要があります。
つまり、炭水化物が全てコメというわけでもないし、タンパク質が牛肉だけでもありません。デザートが梨だけとか、野菜がブロッコリーだけということもありません。つまり、汚染されたコメを食べたのが1食で残りは汚染されていないパンとパスタだった場合、炭水化物を1/3くらいで評価したほうがより正確な値になります。
具体的には、計算結果のベクレル数を実際の食事に合わせて、1食だけ汚染食品を食べたので1/3とか、極少量だったので1/100など大体の感覚で捉えるといいでしょう。
それでは、より現実的な例で摂取ベクレル数を再度、計算してみましょう。先ほどの人に詳しくインタビューすると以下の証言が得られたとします。
朝はトーストで、昼は社員食堂のパスタ。ご飯は夕食のみで、牛肉ステーキはその時。ブロッコリーはステーキに添えられていたもの。デザートは梨のシャーベット。当日、職場で飲んだお茶は2,3杯程度で、水道水は自宅で飲み水として気にせずに普通に飲んだ。
この条件で、今度は対話型プログラムを使って計算してみましょう。
rpn [年齢 身長 体重 炭水化物 タンパク質 ビタミン 脂質 他 飲料] -c bqfood <stdin
基礎データ[年齢]=25
基礎データ[身長(cm)]=160
基礎データ[体重(kg)]=45
1.食べ物[炭水化物 (Bq/kg)]=9.7 ; 20Bqの1/3と30Bqの1/10
2.食べ物[タンパク質(Bq/kg)]=100 ; 300Bqの1/3
3.食べ物[ビタミン (Bq/kg)]=5 ; 50Bqの1/10
4.食べ物[脂質 (Bq/kg)]=0
5.食べ物[その他 (Bq/kg)]=16.7 ; 50Bqの1/3
6.飲み物[水・飲料 (Bq/kg)]=0.2
※一日あたりの摂取ベクレル数は最大45.5697です。
1食の場合は1/3、少しの場合は1/10で計算しています(極少量の場合は1/100でもOK)。計算結果は約46ベクレルです。かなり減りましたね。
ちなみに製茶に含まれるセシウムのお湯への移行は約1%のようなので50Bqの1/100でもOKです。
摂取ベクレルから内部被曝量(μSv)への変換
摂取したベクレルが及ぼす放射線の影響を知りたいなら、係数として0.013を乗じます。非対話型のrpn式で一気に計算してみましょう。
0.592406
または
>rpn 25 160 45 20 3 / 30 10 / + 300 3 / 50 10 / 0 50 3 / 0.2 -c bqfood | rpn 0.013 *
0.59214
計算では例題の46ベクレルの摂取が、一生涯で0.59μSvの内部被曝を引き起こすことが分かります。ちなみに食べ物で500Bq/kg、飲み物で200Bq/kgの暫定基準値のものだけを飲食した場合、どれくらい内部被曝するのでしょうか。例題の人で試してみましょう。
1549.38
摂取ベクレルは1549ベクレルです。0.013を掛けると20.1419なので、生涯で20μSvの内部被曝になりますね。
大人の場合で、かつ、放射性物質がセシウム137だけだった場合の計算です。核種が異なると係数は変わりますし、子供の場合は放射能に対する感受性も高く、また生存期間が長いのでより影響を受けます。あくまで概算として捉えてください。
実例ですが、幼稚園児と教職員の530人の給食にうどんの具として、1400Bq/kgの放射性セシウムに汚染された乾燥椎茸が出されました。椎茸は全部で2kg提供されたので、総量は2800Bqになります。530人で割ると一人当たり3.77gで、5.28ベクレルを食したことになります。
この事例をbqfoodプログラムで計算してみましょう。具材の椎茸は極少量なので1400Bq/kgを100で割って14を設定します。すると100cmで15kg(4歳幼児)の場合、摂取ベクレルは3.93になります。170cmで60kg(25歳)の場合は4.99です。上記の5.28と大体一致しています。
何ベクレルまでなら食べても大丈夫なのか
1960年代の核実験の頃には、1日あたり約1~2ベクレルの放射性物質(食品に含まれる)を摂取していました。もし、今の日本人が核の時代を無事生き抜いたと仮定すれば、2ベクレル以内なら許容範囲になりそうです。
1997年時点では、精米に放射性物質が0.02Bq/kg含まれていました。その他、大根0.26Bq/kg、牛乳0.02Bq/kg、魚0.24Bq/kg、お茶0.32Bq/kg、水道0.06Bq/kg。一食当たり0.07Bq/kgでした。
2011年春における広島の干し椎茸はセシウム137が14Bq/kgでした。セシウム134は未検出なので福島由来ではありません。原爆の影響もあるかもしれませんが、広島原爆+核実験+チェルノブイリ事故由来で既に14Bq/kgあって、それを食してきていることになります。ただし、キノコ類や海草類への生物濃縮は特に高いので、他の食品では汚染度が異なります。
しかし、現実は2ベクレルすらも厳しいものがあります。まず、水は大量に飲むので汚染のないものが前提になります。次に主食のコメや小麦の汚染は限りなく少ないこと。これがなければ1日で2ベクレル以内はまず不可能です(子供は1日で1ベクレルでも多いかも)。
食事のうちコメだけが4Bq/kgに汚染されていたとしても限界オーバーです。汚染のない小麦やコーン、大豆を食べてコメの比率を下げれば、何とか許容範囲内かもしれません。
コメ以外に肉類や野菜も食べることを考えれば、なるべく汚染のない食品をベースにして、汚染食品は1品から2品に抑えておくくらいが関の山です。ましてや全ての食品が汚染されていたら手の打ちようがありません。
乾燥昆布、切干大根、かんぴょう、高野豆腐、干し椎茸等の乾物はヨウ素やカリウム、カルシウムを豊富に含みます。乾物自体の汚染に注意して日頃から摂取していれば防御になります。
やむを得ず、あるいは不用意・不注意で摂取してしまった少量の汚染食品に関しては、プログラムで許容範囲を確認することになりそうです。計算の結果、摂取したベクレル数がとても大きな値だった場合は、生物学的半減期から考えて最低でも3ヶ月弱(約80日)の厳しい食事管理(子供は1ヶ月強(約40日))で、これ以上の内部被曝を防いで一日でも早い代謝を促しましょう。
放射能対策として、少食のすすめもあるくらいです。少ない食事のほうが実際に長生きもするし、過食の時代には丁度いいといった具合です。放射能に汚染されていない食品が手に入らないなら、それも1つの方法です。しかし、栄養が偏ったり極端なカロリー不足になっては他の病気を誘発してしまいます。
放射能に汚染されていない食品を少量だけ食べるのか…。放射能に汚染されている食品を管理しながら食べるのか…。近い将来には、そんな悲しい選択が待っているかもしれません。
放射線による外部被曝や内部被曝に関するまとめが実践コーナー(時事アラカルト)の放射能からのサバイバルに詳しくあります。興味のある方は閲覧ください。
rpnプログラムを実行するには、rpn試用版かrpn標準版が必要です(バージョンの違いはこちら)。
記事の内容はあくまでも個人的な見解によるものです。プログラムや手法、考え方を利用したことにより生じたいかなる損害についても、一切の責任を負えませんので、あらかじめご了承ください。