消費税の増税と沈む景気 part2
日経平均と消費税収との関連性
1989年は日本経済の失われた10年とも20年とも言われる基点の年でもあり、日経平均株価が4万円に届こうかという最高値からの長い下り坂が始まる年でもありました。
日経平均先物の導入年は1988年です(大阪証券取引所)。その後、株式市場では尻尾(先物)が胴体(現物)を振り回す傾向が強くなっていきます。
"nikkei.txt"というファイルに大納会時の日経平均株価が格納されているとします。ファイル内容は以下のとおりです。
19891229 38915
19901228 23848
19911230 22983
:
(中略)
:
20111230 8450
20121228 10390
20131230 16290
四半世紀の日経平均推移
では、1989年から2013年までの25年分の日経平均株価(大納会)を使って、その推移を時系列でグラフ化してみましょう。同時にnpdで景気の期間や発生した重要イベントを記載しておきます。
>rpn _, <nikkei.txt | rpn 1 -c rownum >tmp
>xyp -x,25 -y,40000 -m -s5,5000 -n -d+ <tmp | npd
^+ 40000 <-- 最高値
35000
|
30000
| ITバブル
25000 | 小泉郵政改革
| ++ v |
20000 ++ + + v リーマンショック(サブプライムローン)
| ++ + + | +
15000 ++ + + | ^
| ++ v |
10000 ++ ^ ++ ++ + アベノミクス
|<- 失われた10年 -> | 東日本
5000 りそなショック 大震災 x
|o 25
+------5-------10------15------20------>
------> <-------->
平成景気(51ヶ月) いざなみ景気(73ヶ月)
戦後最長のいざなみ景気があったものの、見事に長期的な右肩下がりです。38915円から16290円なので58%の下落率です。この日経平均を景気の良し悪しと考えて、消費税収額と重ねてみましょう。
1989年12月29日の最高値38915円から2009年3月10日の7054円までなら下落率は実に82%。100万円が18万円になる計算です。^+ 15兆円 ^y 40000
| 35000
| 消費税5% |
| | 30000
10 v* * * ** * * * |
| * * ** ** ** * 25000
| ++ |
| ++ + + 20000
| ++ * + + + |
5 ** ** ++ + + 15000
| ** ++ |
|*<-- 消費税3% ++ ++ ++ + 10000 * 消費税収(左軸)
| | + 日経平均(右軸)
| x 5000
|o 25 |
+------5-------10------15------20------> + 消費税導入からの25年
グラフでも右肩上がりの消費税、右肩下がりの日経平均が読み取れるので、当然の如く逆相関の感じがします。
日経平均と消費税収額は逆相関or順相関
tax.txtとnikkei.txtの2つのファイルを使って、実際に相関係数を計算してみましょう。必要なデータである消費税額と日経平均株価だけを抜き取ってから計算しています。
-0.762803
相関係数は-0.762803で日経平均株価が下落すると消費税の税収が上昇することが分かります。ただし、消費税収が高止まりとなった時期から日経平均との相関を計算すると少し様子が変わります。
>rpn #n _ _ #z _ @z @n <tmp | rpn -c r
0.436527
今度はプラスの0.436527なので弱い順相関が見てとれます。株価は景気の先行指標なので税収との相関が時期的に一致するわけではありませんが、少なくともここ17年は相関関係にあるようです。つまり、株価が上昇すると消費税の税収は増えることになります。
それでは、17年前からのデータに限定した一般会計の税収額と消費税収額の相関係数はどうなるでしょう。計算するとその値は-0.102731で、やはり逆相関(あるいは無相関)です。株価と異なり、一般会計は一貫して縮小しているようです。*
税制における累進課税は持てる者から多くを課税し、持たざる者には少なく課税します。ただし、行政から受けるサービスは納税額の多少に関係なく同じ内容なのですから、お金持ち(高所得者)からすればとても不平等な制度です。
とは言え、社会全体から考えると累進課税は巧妙な仕組みであり、言うなれば投資信託のリバランスのようなものです。ヒト・モノ・カネ等のリース全体をカバーしたポートフォリオとして考れば、累進課税には社会的にとても合理的な一面があることが分かります。
一方、消費税の一番の問題点はその逆進性にあります。つまり、消費税は所得の高い人にはそれほどの影響がないものの、所得の低い人への負担が大きくなるのです。
所得の大きさに関わらず徴収される間接税は、直接税に比べると逆進性の傾向があります。
高級品や贅沢品を買わない選択はできますが、消費行動全体に課税する消費税は食品、被服、光熱費、交通費、必需品など生活全てに掛かってきます。企業においても企画や生産、流通、そして販売など全ての活動において課税され、ボディブローのように財務を圧迫します。
結局、8%への消費税増税は経済活動へのダメージが思いのほか大きかったようで、4月~6月、7月~9月のGDPは2期連続でマイナス。冷夏であったことなどを理由としていましたが、10%への消費税アップは少なくとも2017年4月に延期と表明されました(2014年11月)。
人類の長い経済活動の中で消費税の導入は僅か半世紀前です(導入から高々50年)。紙幣制度を近代経済の始まり(1700年頃)と定義したとしても、300年間は消費税のない世界だったわけです。経済成長(あるいは社会の成熟)と消費税の関係に正の相関関係があればよいのですが、その証明は誰もできていません。
消費税を導入した国は全て失敗しているとする意見もあります。
番外編:世界の消費税(付加価値税)
1954年にフランスで導入された消費税(付加価値税)ですが、2013年時点で148の国々が導入しています。世界は195ヶ国で構成されていますから、全世界で実に76%もの導入率です。
付加価値税とは商品が消費者に渡るまでに販売される毎、課税される税のことで、VAT(Value Added Tax)と呼ばれることが多いようです。最終的に商品が消費されるまでに付加価値が上昇していくと考える仕組みです。
消費税率は国によって大きく異なり、イギリス、フランス、ドイツはそれぞれ20%、19.6%、20%。ロシア、中国は18%です。隣国の韓国は10%、昔から福祉国家として有名なスウェーデンの消費税は25%にもなります。
それでは、148ヶ国の消費税率を格納したファイルの"tax148.txt"を使って、まずは基本統計量を計算してみましょう。
デ ー タ 148
最 小 値 5
最 大 値 27
範 囲 22
合 計 値(Σ) 2402.5
平 均 値(μ) 16.2331
分 散 値(σ2) 21.3025
標準偏差(σ) 4.61546
分 散 値(s2) 21.4474
標準偏差(s) 4.63113
歪度(a3≒0) -0.304294
尖度(a4≒3) 2.8232
変動係数(ν) 0.285289
2013年時点で、最小は5%の消費税率(日本含む)、最高の税率は27%のハンガリーです。北欧の国は社会保障が充実しており、消費税率が高い傾向にあります。なお、意外に思うかもしれませんが、アメリカに消費税はありません。
アメリカに消費税はなく類似の税が売上税です。税率は州毎に異なり、場所によっては0%の州もあります(最高は9%程度)。あくまで売上だけに掛かる税金で、仕入れや設備投資には掛かりません。消費税を導入しない理由は第一に不平等であること、第二に効率が悪いことだそうで、とことん合理的な国のようです(逆説的には平等または効率的なところから税収を図る)。
次に消費税率の分布を確認するために幹葉表示してみましょう。
0 | 555577788
1 | 0000000000000022222222222223333444555555555555555555566666666
6677777777888888888888888888888889999999
2 | 00000000000000000111111112333344555557
最も多い税率は10%台です。次に20%台が多く、数%台は僅かに9カ国だけになります(日本を含め)。次は少し細かく、小数点第1位まで表示した分布です。
5 | 0000
6 |
7 | 000
8 | 00
9 |
10 | 00000000000000
11 |
12 | 0000000005555
13 | 0000
14 | 000
15 | 0000000000000000000
16 | 0000000055
17 | 00000005
18 | 00000000000000000000000
19 | 0000366
20 | 00000000000000000
21 | 00000000
22 | 0
23 | 0000
24 | 00
25 | 00005
26 |
27 | 0
日本は2014年4月に5%から8%になったので、幹葉表示の5のカウント数が1つ減って、8のカウント数が1つ増えます。
分布を見ると平均が16%になるのも頷けます。全体的にガウス分布っぽくはありますね。それでは例外といえる位に異常な消費税率はどれくらいになるのでしょうか。異常値検出プログラムで計算してみましょう。
>rpn -c outlier <tax148.txt
どうも異常値扱いの税率はないようです。消費税率がガウス分布だと仮定すると突出して消費税の低い・高い国はないことになります。
国家間における消費税率の格差
税率を昇順に並べ替えてからグラフ化してみると、世界の消費税率を違う角度から理解できます。
>xyp -x,148 -y,30 -s25,10 -m -n -w60 <tmp
^y 30
| *
| **
| ***
20 ****
| **********
| **************
| ***********
| *****
10 ****
| *******
|***
**
| x
|o 148
+---------25--------50--------75--------100-------125------>
縦軸が消費税率で横軸が昇順に並べた148ヶ国です。このグラフでも世界平均の消費税率16%部分の曲線が滑らかで対象国の多いことが、そして税率の小さい国と大きい国が少ないことが分かります。
ところで、世界の消費税率は国家間で見た場合、許容できる格差なのでしょうか。5%と27%では如何にも不平等のようですが、それは許容できる税率の差なのでしょうか。そこで格差を数値化できるジニ係数も計算してみます。
0.160414
ジニ係数については応用コーナーの不平等と格差の見える化に詳しくあります。rpnプログラムのginiも提供されています。
ジニ係数によると格差のない比較的平等な世界です。消費税を取られる側からすれば都合の悪い結果ですが、全世界レベルで見ると最小5%と最大27%の違いを含めて、格差があるとは言えない(極端な歪みはない)ことになります。
収めた税金が社会資本・保障として納税者に還元されていることが前提です。27%の高税率の国は100%還元するのに、5%の国は既得権益を増やすだけで還元がないなら平等とはいえません。
付加価値税(消費税)は導入国ごとに課税対象に違いがあるので、一概に平等感を判断できません。例えばイギリスでは食料品や書物、医薬品、公共交通の運賃への課税はありません(所謂、生活必需品)。基本は直接税で賄い、間接税に関しては贅沢な生活には高い税率、慎ましい生活には低い税率など、柔軟に対応できる課税方式が長期的には好ましいのでしょうね。
日本の場合、生活必需品にも消費税(5%)が掛かるため、実施的負担は他国の付加価値税20%に相当との意見もあります。現時点で一般会計の25%に及ぶ消費税への増税はもはや限界でしょう。
rpnプログラムを実行するには、rpn試用版かrpn標準版が必要です(バージョンの違いはこちら)。
pasteは講座サポートで公開されています。rownumはカンタン分析パッケージに同梱されています。statinfo, stemleaf, tail, outlierはrpnマイスターパッケージに同梱されています。sortはユーティリティーパッケージに同梱されています。rはビジネス統計(単回帰編)に同梱されています。xypとnpdはrpnの姉妹ソフトウェアです。詳しくはプロダクトを参照ください。