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  • 調査

放射能からのサバイバル(後編)

 ベクレルやシーベルトについて、放射能からのサバイバル(前編)で確認しました。また、過去の放射能関連事故などと比較することにより、今回の福島原発事故の規模と位置付けを把握することもできました。

しかし、汚染度を示すベクレル値と健康への影響を示すシーベルト値との相互変換ができなければ日々の対策が取れません。後編では汚染が健康に及ぼす外部被曝、放射性核種の違いによる内部被曝への影響について見ていきます。

ベクレルからシーベルトへの変換(土壌バージョン)

 土壌のベクレル数だけでは身体へどれくらいの影響があるのか分かりません。そこでベクレルからシーベルトへの変換が必要になります。単純にBq/㎡を30万で割ればいいだけです。

付箋Bq/㎡を30万で割るとμSv/hになります(正確には282,000で割る)。


  例:50万Bq/㎡の場所では空間線量は何シーベルトになるでしょうか。

  >rpn 500000 300000 /
  1.66667


計算すると線量が1.67μSv/hになりましたが、282,000はセシウム134と137を線源とする空間線量とBq/㎡との関係から導かれた定数なので、誤差も当然あります。あくまで概算として考えたほうがよいでしょう。

土壌からの放射線が空間線量の全てではない可能性があります。汚染された土地では土壌以外にも草や樹木、車両、建物などから放射線が届く可能性があります。あくまで土壌のベクレル数とその場所での空間線量との単純な相関なので、環境や条件によっては大きく値は変わるだろうことが予想されます。

実際、山積みされた約1万ベクレル/kgの腐葉土の袋に直置きで計測して、2μSv/h(α線、β線は遮蔽)という事例があります。山積みなので様々なところから放射線が来ていそうです。このように環境によって大きく値は異なります。

土壌が放射性物質で汚染されている場合、その土壌で育つ野菜、果物、そして草を食む動物などに汚染は食物連鎖していきます。最終的に生物濃縮された食品が食卓に上がるわけです。ちなみに500Bq/kgの汚染食品は表面線量で0.03μSv/hが自然放射線量に加えて上昇するという予想があります。国民生活センターの見解では500Bq/kgは空間線量0.007μSv/hに該当とのこと。

ベクレルからシーベルトへの変換(物体バージョン)

 放射線源が比較的小さい物体だった場合、先ほどの1.67μSv/hは大きめの数字になっているかもしれません。そもそも放射性物質から放たれる放射線はどの方向に跳ぶか予測できません。例えば、地面に落ちた「*」を放射線源とすると、下の模式図でも4方向のどちらに飛ぶか分かりません。


                          ^ 90°
                          | ____ 落下した放射性物質
                          |/
  ------------ 180°<---- * ----> 0°------------
  /// 地面 ///            |          /// 地面 ///
                          |
                          v 270°


1.67μSv/h分の放射線が全部同じ方向に飛んで、全部人体に当たれば1.67μSv/hの被曝ですが、地面に付着した放射性物質の半分は地中に向かって放射線を出すはずです。

そこでざっくりと計算して、1/4くらいが人体に当たるだろうと考えると、1.67μSv/hを4で割って0.42μSv/hになります。3次元で考えると手前と奥を加えた6方向になるので0.28μSv/hです。

小袋に詰めた11,000Bq/kgの汚染腐葉土にシンチレーション式(γ線のみ検出)の測定器を直付けで測定したところ、0.4μSv/hだったという事例があります。計算では11000×50÷30万÷4なので0.46μSv/hになります。1/4のほうが近似していますね。
杉並区小中学校の放射性物質に汚染された芝生養生シートは1cmの高さで3.95μSv/h、高さ1mで1.13μSv/hでした。シートを測定すると90,600Bq/kgだったそうです。上記の方法で計算すると近距離で3.78μSv/hです。このケースでも大体、近似しています。

実際にはどの方向から放射線が飛んでくるか分からないので、確実に放射線源が特定できる場合を除くと、空間線量は0.42μSv/h~1.67μSv/h(0.42の4倍)の範囲にあると考えるのが妥当でしょう。もちろん、放射線源が1kg以上あった場合の話で、200gなど少なくなれば放射線量も減ります。

経済産業省前の植え込み土壌が10,013Bq/kg(セシウム134と137)。計算では0.42μSv/hですが、実測は0.7μSv/h。仮に測定場所が花壇なら土壌以外に人形峠レンガの影響もあるかもしれません。ちなみに、人形峠レンガは1個で0.22μSv/hの値だそうです。

ちなみに直付けで0.4μSv/hでも1m離れると0.06μSv/hに減ります。上の図は4方向ですが、現実には四方八方いろんな方向に飛びます。ピッタリ90°上方向に放射線が出れば体に当たりますが、70°や110°だと距離が遠ざかれば遠ざかるほど当たらなくなります。

検出器の形状が凸型で検体(放射線源)が□型なら、1方向からの計測になるので放射線は全体の1%だけを検出。検体が凹型なら突き刺す形になるので放射線の20~40%。検体が□型で検出器が凹型だとすっぽりと検体が検出器に入るので、ほとんどの放射線を検出できるそうです。

たった1m離れただけでも0.4μSv/hが0.06μSv/hになって、85%も影響力が減るわけです。外部被曝を避けるには放射線源から1mmでも遠く離れるというのが鉄則です。

放射線には距離による減衰もあります。放射線が物質に衝突したり、影響を受けたりして、エネルギーが低下していく現象です。実際に、放射線のうちβ線は1mくらいで減衰します(空気中の場合)。しかし、γ線の場合100mは必要なので距離によるエネルギーの減衰は期待できません。距離を空けると線量が下がるのは、放射線源からの方向がずれるからですね。

放射性核種の違い(α線核種、β線核種、γ線核種)

放射性物質にはα線核種、β線核種、γ線核種があります。名前が示すとおり、それぞれα線、β線、γ線の放射線を出しますが、その飛距離(飛程)は以下の表のとおりです。

          空気中飛程               体内飛程
          (外部被曝)              (内部被曝)               遮蔽
        ==============  ===============================  =========
  α線  4cm(センチ)     40μm(ミクロン)   (細胞2,3個分)  紙一枚
  β線  1m(メートル)    4mm(ミリ)         (細胞200個分)  アルミ3mm
  γ線  100m(メートル)  体を突き抜ける(飛跡の細胞n個分)  鉛10cm


α線は電子がなくなったヘリウムが実体で空気中でもほとんど飛びません。β線は実体が電子で1mくらいで減衰します。対して、γ線は電磁波なのでかなり飛ぶことが分かります。

つまり、体の外に放射線源がある外部被曝の場合、危険なのは遮蔽しにくいγ線です。ただし、α線とβ線でも重度に放射能汚染されたもの(ホットパーティクル)に直接触ると火傷を起こします。また、衣服に付着した放射性物質も危険で、知らぬうちに手で口や目に触れると粘膜経由で被曝する可能性があります。

福島原発事故当時、二本松市の避難所には放射性物質を被った人々が殺到していました。中には400Bq/c㎡以上の人もいたようで、緊急の除染が必要でした。
南相馬市の一部でα・β・γ線の測定事例があります(原発事故後10ヶ月経過時点)。測定単位はμSv/hではなくcpmです(count per minute:1分あたりの放射線の計数率で主に表面汚染度)。それによると地面に直置きでα線は3050cpm、β線は9429cpm、γ線は901cpmでした。β線はγ線の実に10倍、α線は3倍です。α、β線核種にも十分な注意が必要なことが分かります。

緊急避難地域以外では、貫通力の強いγ線による外部被曝に注意する必要があります。外よりは室内、木造よりは鉄筋コンクリートの方が少しでもγ線から守ってくれます。

一般にγ線の場合、放射線の遮蔽率は木造家屋で1/2、鉄筋コンクリートの構造物で1/5と言われています。日本家屋の遮蔽に関しては、屋根の上で1.8μSv/hの線量があった場合、室内の天井で0.7μSv/h、鴨居で0.5μSv/h、畳の上で0.3μSv/hという例があります。

除染被曝に注意

セシウムはコンクリートやアスファルトなどの物質と強く結合してしまうため、除染しても10~30%程度しか線量が低下しません。従って、水で洗い流したり土を退かすなどの除染は根本解決にならず、汚染対象を剥ぐ・汚染対象に被せるといった本格的な工事が必要となるかもしれません。また、専門知識なしの除染作業は被曝の危険があるので十分な注意が必要です。

土壌に依りますが、チェルノブイリの経験から放射性セシウムは毎年1cmずつ地中に沈下することが分かっています。時間が経つほど除染は困難さを増すわけです。ソビエトは軍を動員して30km圏内の除染で20cmの表土を剥ぎ取りましたが、土壌以外のセシウム吸着等々で効果が上がらず、結局は除染を諦めています。そして、30km圏内は現在でも立入禁止となったままです。

ベクレルからシーベルトへの変換(飲食物バージョン)

 土壌(物体)からの被曝は、あくまで放射性物質が一箇所に止まって放射線を出すイメージです。しかし、放射性物質が移動するとなると問題は遥かに深刻になります。つまり、飲食や呼吸によって放射性物質を体内に取り込む内部被曝です。

陸であっても海であっても、時間が経過すると土や水に付着していた放射性物質は植物に吸収され、動物に移行して生物濃縮が始まります。最終的に放射能汚染された食物に含まれる放射性核種(特にα線やβ線を出すものが危険)を体内に取り込むことで内部被曝が始まります。
内部被曝の原因となる7~9割が飲食によって起こると言われています。

上の簡易な4方向の図で考えるとすぐ分かりますが、胃や肺に入った放射性物質からの放射線は全方向で体内の細胞に当たることになります。したがって、極少量のベクレル数であっても大きな影響が出そうなことは想像ができます。

一度地面に降下した放射性物質が風で舞い上がる場合、大気から直接吸い込むのに比べて内部被曝量が10倍になるという研究結果があります。飲食同様、呼吸にも十分な注意が必要です。

なぜ内部被曝が起こるのか

放射性ヨウ素やセシウム、ウランなど核種によってα線を出すもの、β線を出すもの、β線+γ線を出すものと違いがあります。γ線はエネルギーを持って体を突き抜けますが、α線とβ線は至近距離で全てのエネルギーを放出して細胞、遺伝子を攻撃します。

放射線による被曝で細胞は即死するか、機能障害を起こすか、癌化するか、修復されるかします。ただし、胎児には細胞の修復機能はなく子供のそれも未熟なため、妊娠女性・乳幼児・子供への被曝対策は成人男子よりも慎重にあるべきです。
DNAは二重螺旋構造になっていて、1本だけの切断なら放射線に当たっても修復可能です。しかし、二重鎖切断ともなると修復が難しくなります。また、細胞分裂時には1本にほどけますが、このとき運悪く放射線が当たると修復できなくなります。子供の放射線に対する感受性の高さは、成長が盛んなことから細胞分裂でDNAがほどけている確率が高いからです。
DNAの修復ミスが起こった細胞はアポートシスといって自殺する仕組みもあります。自殺もせず変異を抱えて存在し続けた場合に細胞は癌化します。ある研究では植物の場合、癌化した細胞を殺さずに分裂を止めて細胞自体を大きくすることも明らかになっています。よく放射能で生物の巨大化が取り上げられますが、即座に放射能の影響であると断定はできません。しかし奇形を含め、全く影響がないと言い切るのも強引でしょう。
通常、細胞は燐脂質物質の電気膜で異物の侵入を防いでいます。しかし、酸素分子に放射線が当たることで活性酸素に変化。これが荷電しているために電気膜に穴を開けてしまい、放射性物質の分子が細胞内にまで侵入していくというメカニズムも解明されています。

放射性ヨウ素はヨウ素、放射性セシウムはカリウム、放射性ストロンチウムはカルシウムのふりをして体内に蓄積されます。ただし、人には代謝の機能がありますから、体に不要な物質は何日か経つと排出されます。

自然界には元々、放射性カリウム(カリウム40)が存在しており、健康な体にも4000ベクレルのカリウム40があります(約70Bq/kgの被曝)。ただし、カリウムが体に蓄積しないのに対し、放射性セシウム(セシウム137)は徐々に蓄積します。また、放射線の強さはカリウム40の2倍です。結局、蓄積(濃縮)するか否かと放射線の強弱が自然放射能と人工放射能との違いになります
ちなみに、ヨウ素131の生物学的半減期は120~138日、セシウム137が70~100日です。しかし、ストロンチウム90のように骨に蓄積してほぼ一生(半減期が50年)出てこないものもあります。また、プルトニウムは100万分の1gで死亡すると言われています。
福島原発事故の場合、飯舘村での分析からストロンチウムはセシウムに比べて100分の1から1000分の1の飛散量。そして、プルトニウムはセシウムの100万分の1とのことです。

従って、放射能による内部被曝の危険度を知るには、代謝も考慮した被曝量を計算してシーベルト換算する必要があります。しかし、面倒なことに放射性核種によって計算に使う係数が異なります。

そこで、今後問題視される可能性の高い放射性セシウムに限定して、摂取したベクレルからシーベルトへの変換を考えてみます。シーベルト単位にすることである程度、危険性を知ることができます。

次は…

 土壌汚染の度合いから空間線量を推定する方法を示しました。空間線量に気をつけていれば直接の被曝を避けると同時に、周辺の放射能汚染に気を付けることができます。加えて放射線をα線・β線・γ線に区別して考えることで、外部被曝への対策を具体的にイメージすることができます。

しかし、放射性物質に塗れてしまった土壌は植物を汚染し、動物を汚染し、恐ろしいまでの生物濃縮を作り出します。それらは最終的に汚染食品として食卓に上がるわけです。摂取すれば確実に内部被曝してしまいます。

では、実際に一回の食事にどれくらいの放射性物質が含まれているのでしょうか。食べても安全な摂取量はどのくらいなのでしょうか。摂取し続けたとして、体内に蓄積しても大丈夫な放射性物質の量の目安はあるのでしょうか。

放射能による障害をなるべく少なくするために、知っておかなければならないことは多くあります。

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