経営分析で株価を予想
社会はお互いを評価し合っています。人は人を評価し、企業は企業を評価します。付き合うに足る人物か、取引するに足る企業か、投資するに足る企業か、いつも値踏みしています。人物評価のように定量的な判定と同程度に定性的なものが重要な場合は評価が難しくなりますが、企業評価の場合は定量的な部分がかなり多くなります。
では、何を持って企業を計ればいいのでしょうか。何が良い企業で何が悪い企業なのでしょうか。企業が社会的に果たす公共的な役割まで考慮すると評価は難解になってしまいますが、利益を上げることが企業の第一目的と考えれば少しは分かりやすくなります。
投資の視点で考えても、投資対象となる企業の経営状態を数値で適切に評価できることは大切です。PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)、ROE(株主資本利益率)から企業を眺める一方、企業経営の成績表とも言える決算報告から企業の健全性や将来性を見極めるのも必要でしょう。
そこで基本に立ち返って、企業における資本と資産の関係から見てみましょう。
バランスシート(貸借対照表)は企業の診断表
お金を物(サービス)に変えて提供し、新たにお金を得る。これを繰り返すことによって、企業内部のお金と物のバランスを良くして、その量も増やしていくことがビジネスの基本です。当然、お金⇒物⇒お金の流れにおいて、後者のお金が増えていないといけません。それが利益になるわけです。
この一連の流れが企業の基本的な姿であると考えても大枠当たっています。すると、これらの関係を数値化して管理することが肝要になります。お金と物は難しい言葉で置き換えると資本(お金)と資産(物)です。
| | |
| 資産 | 資本 |
| | |
+------+------+
いわゆるバランスシート(貸借対照表)ですね。ちなみに右側と左側の金額は必ず同じになります。ところで、右側の資本ですが、以下の図のように他人資本と自己資本に分けて考えることができます。
B/SはBalance Sheetの略です。+------+----------+
| | 他人資本 | (負債)
| 資産 +----------+
| | 自己資本 |
+------+----------+
自己資本は自分が初めから持っていたお金、他人資本は他の人から借りたお金と思うと分かりやすいでしょう。もっと分かりやすく言えば、貯金と借金ですね。
| | 他人資本 | | | 借金 |
| 資産 +----------+ ≒ | 資産 +------+
| | 自己資本 | | | 貯金 |
+------+----------+ +------+------+
借金には金利が付くことをお忘れなく。つまり、他人資本には利子がつきます。
結局のところ、企業は資本を元手に資産化して、顧客相手に商売しているわけです。
右側の資本から入って左側の資産に
バランスシートを左右に分解して考えると分かります。図の右側から資金が入ってきて、そのお金を運用する(商品を仕入れたり、人を雇ったり、工場を新設したり)ことで、左の資産になります。
| | 運 | 他人資本 | (借入等)
| 資産 + <--- +----------+ <-- 資金調達
| | 用 | 自己資本 | (株式等)
+------+ +----------+
つまり、貯金と借金を使って、物やサービスを作り、顧客に提供することで、消費したお金(費用)より多いお金を回収(売上)することを狙っています。当然、回収できなかったり、回収が遅かったり、回収額が使った額より少なかったりすれば赤字になります。
損益はP/L(損益計算書)に集約
企業経営で結局、どれだけお金を使って、どれだけ儲けたかは以下のように損益計算書(P/L)にまとめられていきます。売上高から仕入高や製造原価、販売管理費や税金を引いて、当期利益が決まります。
P/LはProfit and Loss Statementの略です。
最後に当期利益から配当等の利益処分を行ないます。最終的に残ったお金は次期繰越利益となります。まとめると次のようになります。
| | 運 | 他人資本 | (借入等)
| 資産 + <--- +----------+ <-- 資金調達
| | 用 | 自己資本 | (株式等)
+------+ +----------+
| |
+--------+-------+
|
v
+-------+ 利 +----------+
| P/L | ---> | 利益処分 | ---> 次期繰越利益
+-------+ 益 +----------+
ここで、バランスシートの資産を性質別に分解してみると、一年以内に現金化できる流動資産と一年以内には現金化できない固定資産に分かれます。同じく、他人資本も一年以内に返済が必要な流動負債と一年を超える固定負債があります。
+----------+ | 流動負債 |
| 流動資産 | 運 +----------+ (借入等)
+----------+ <--- | 固定負債 |
| 固定資産 | 用 +----------+ <-- 資金調達
+----------+ | 自己資本 | (株式等)
+----------+
固定負債と自己資本の合計が固定資産を上回っていることが基本です。
これらの性質の違う資産と資本のバランスや増減をうまく管理していくことになります。例えば、固定資産を購入するのに短期の借入をしていたのでは、問題がありますよね。また、日本の企業固有の問題ですが、自己資本が少なすぎるのも難ありです。これらをまとめて改めて図に示すと以下のようになります。
| 流動資産 | | 流動負債 |
| | 運 +----------+ (借入等)
+----------+ <--- | 固定負債 |
| 固定資産 | 用 +----------+ <-- 資金調達
| | | 自己資本 | (株式等)
+----------+ +----------+
| |
+--------+----------+
|
v
+-------+ 利 +----------+
| P/L | ---> | 利益処分 | ---> 次期繰越利益
+-------+ 益 +----------+
最低限、これらの要素のバランスがうまくいっていないと経営難となっていきます。つまり、企業として存続できなくなります。
- 悪い企業≒倒産する可能性が高い。
ですね。とすると、良い企業というのは結局、
- 良い企業≒永続する可能性が高い。
と考えてもよさそうですね。
経営における基本中の基本である損益分岐点(Break Even Point)はP/Lから導きます。費用を固定費と変動費に分けて、固定費÷{(売上高-変動費)÷売上高}で計算すればOK。または式を変形して固定費÷(1-変動費÷売上高)です。例えば、固定費30、変動費50、売上高100とすると、rpn式で「rpn 30 50 100 #s #v #f @f 1 @v @s / - /」となり、計算してみると売上高60が損益分岐点であることが分かります。
良い企業の条件とは
企業には大企業もあれば中小、零細企業もありますが、全ての会社にバランスシート(B/S)が必ずありますし、損益計算書(P/L)もあります。それらを使って健全な体質をもつ企業を判定できれば、客観的に評価することができるわけです。
では健全な体質とは何か。ここに企業を評価する指標があります。それは安全性・収益性・循環性・成長性の4つの面からB/SとP/Lの数値を検討し、企業を評価する方法です。
安全性 |
資本と資産のバランスを考慮します。資産運用に適した資本の調達がなされていれば急激に経営が傾くことはないと考えます。また、自己資本は企業の蓄積を示し、割合が多ければより安定した経営に繋がります。
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---|---|
収益性 |
資本がどれくらいの利益を生んでいるか計ります。どんなに資本が大きくても生んでいる利益の割合が小さければビジネスとしては問題があります。資本を企業への投資として考えればリターンの大きい企業のほうがより魅力的です。
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循環性 |
資本の有効利用度を計ります。資本の循環が滞ることなく売上に反映しているか、売上の回収と支払いの調和が取れて運転資金に事欠かないかなどを評価します。
|
成長性 |
数年に渡る利益や自己資本の増減を見ます。利益に関しては経済成長率以上に増加していることが求められます。収入と貯蓄具合の推移を確認し、評価するわけです。成長性は他の指標の総決算的な意味合いもあります。
|
これらを評価するためにB/SとP/Lから数値を抜き出して、計算(比率化)します。計算自体は市販の経営分析本に多く取り上げられているメジャーなものです。以下に指標と比率の名称を対比させて示します。
安全性 |
自己資本比率、流動比率
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---|---|
収益性 |
資本営業利益率、営業利益率
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循環性 |
資本回転率、買入債務/売上債権回転率比率
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成長性 |
売上高増加率、自己資本増加率
|
本来はもっと多くの比率で計るのが好ましいのですが、ここでは単純化してそれぞれ2つの比率のみに限定しています。数こそ限定されていますが、キーポイントは捉えているので、企業を概略で捉えるには十分でしょう。
会社の経営状況を素早く掴むには、何はさておき、①売上額と利益率の推移。②次に売上から残る粗利益(ビジネス自体の調子)、営業利益(受け取り・支払い利子)、経常利益(特別利益・損失(リストラ等))。③最後にキャッシュフローの三つ組み(営業、投資、財務)の増減パターンを追いかけるとよいでしょう。これらを先に把握すると貸借対照表をより正確に分析できます。
最終的にそれぞれを得点化して、総合平均点を出せば企業を採点できます。採点過程は煩雑なので、必要な項目に対する金額を入力すれば、得点が出てくるようなプログラムがあれば助かります。
経営分析プログラム
まず、ana-safe, ana-prof, ana-cycl, ana-grow, ana-dispという5つのrpnプログラムを用意します。順番に安全性、収益性、循環性、成長性を採点するプログラムです。それぞれの点数を出して最後にana-dispプログラムで集計すれば企業の採点ができるわけです。
ある企業の決算書の数値を例にして、以下に各種プログラムの使い方を紹介します。なお、金額の単位は10億円です。
企業の安全性を採点
まずは企業の安全性を採点します。プログラムはコマンドラインから直接計算する方法と、対話型で計算する方法の2種類あります。以下は対話型の例です。
rpn [総資本 自己資本 流動資産 流動負債] -c ana-safe <stdin
総資本=2701
自己資本=672
流動資産=406
流動負債=589
=========
自己資本比率(5~60%[40%])⇒24.8%
流動比率(110~180%[130%])⇒68.9%
採点⇒24点
総資本は資本または資産の総額です。流動資産には現金預金、受取手形、売掛金、製品、原材料、仕掛品、貸付金などがあります。流動負債は支払手形、買掛金、短期借入金、割引手形、未払法人税等などがあります。ともに貸借対照表(B/S)から転記します。
コマンドラインの場合は以下のように総資産、自己資本、流動資産、流動負債の順に指定します。再利用可能なように出力に修飾はしてありません。
0.248797 0.689304 24
入力数値は金額ですが、単位は関係ありません。百万円単位でもいいし、一円単位でも構いません。入力後にそれぞれ必要な計算値が出てきます。ただし、業界によって計算結果の比率は異なります。1つの目安としてみてください。
なお、計算結果の丸括弧内の数値は大体の範囲で、鍵括弧内の数値は推奨する値です。最後に安全性に関する採点が行なわれます。なお、採点は100点満点です。
流動比率は銀行家比率とも言います。銀行が企業に貸付する際に参照する大切な指標です。
企業の収益性を採点
次に企業の収益性を採点します。対話型のプログラムの例は以下のようになります。
rpn [総資本 売上高 営業利益] -c ana-prof <stdin
総資本=1301
売上高=2781
営業利益=24
=========
売上高営業利益率(2~12%[7%])⇒0.8%
資本営業利益率(0~10%[7%])⇒1.8%
採点⇒9点
総資本は貸借対照表(B/S)から、売上高と営業利益は損益清算書(P/L)から転記します。より正確な計算のためには総資本から株式等の有価証券分を除きます。また、売上高から値引きや返品分も除きます。概算でよいのなら除かなくても採点はできます。
コマンドラインを使う場合は次のとおりです。総資本、売上高、営業利益の順に数値を指定します。
0.00862999 0.0184473 9
次は…
企業の資本と資産の関係を貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)で見てきました。企業の基本的な姿は資本を資産化して利益を出すことであり、その足跡がP/LとB/Sに示されます。毎日の企業の営みは勘定科目毎に集約され、全て金額として残ります。
企業を評価する、つまりは経営分析をするためには、それらの項目から必要なものを選び出して、安全性・収益性・循環性・成長性の4つの指標に変換することができればOKです。指標に数値化できれば企業を採点することができます。
さて、残るは循環性と成長性の採点です。プログラムはどのような値を出力するのでしょうか。これらの得点を合計して見えてくる企業の成績はどのように考えるのでしょうか。そして、経営分析から株価を予想する夢のような話が続きます。
rpnプログラムを実行するには、rpn試用版かrpn標準版が必要です(バージョンの違いはこちら)。