チョコと株価の甘美な関係
テレビをぼんやりと眺めていると「チョコレートで株価が上昇する」との声が…。
『過去10年間でバレンタインデーに株価が上がった確率はなんと100%!』
上がり下がりが50%と言われる株式市場でこんなに確かな話はありません。何しろ、行動ファイナンスの専門家が言ってるんだから間違いない。さっそく、株を買わないと…。
株式投資に新しいアノマリーが登場です。何でも愛の告白日には株価が上昇する経験則があるのだそうです。名付けて「バレンタイン効果」です。
チョコを貰った男性は前向きな気持ちになるのが理由とのことですが、株式投資するのは男性だけではありませんし、法人や信託銀行が男性の気質を持っているとも思えません。第一、日本の株式市場の半分は外国人投資家とも聞く現在、そんなことがありえるのでしょうか。
女性から男性へチョコレートを贈る日本のバレンタインデーの習慣が、お菓子会社の販売促進の賜物であることは周知の事実ですね。
アノマリーに関連した記事が曜日と月が教える株の投資にもあります。興味のある人は閲覧ください。
20年間分の日経平均で検証
さっそく、1992年から2012年までの20年間の日経平均のデータを使って検証してみましょう。冒頭のとおりの結果が得られるでしょうか。
まず前日の終値と当日の終値の上昇分を計算するために、検証期間の一日前の1992年12月30日のデータから用意します。ファイルの"n225.txt"には20年分以上のデータが格納されているものとします。
これで、nikkei.txtファイルに20年分の検証データが格納されました。中身を確認してみましょう。
19921230 16924
19930104 16994
19930105 16842
19930106 16782
19930107 16780
:
(中略)
:
20121221 9940
20121225 10080
20121226 10230
20121227 10320
20121228 10390
次に前日と当日の上昇分を計算します。単純に当日の株価を前日の株価で割ればOKです。プラスの値なら株価が上昇、マイナスの値なら株価が下落です。計算結果は1行のrpn式ですぐに出てきます。
ここで注意が必要ですが、前日との比を計算するので計算結果のデータ数が異なります。
4922
>rpn -c count <nikkei.div
4921
nikkei.txtは4922個で、nikkei.divは4921個ですね。そこで、データが1993年から2012年となるようにデータを揃えておきます。
>paste nikkei.day nikkei.div >nikkei.dat
これで、nikkei.datに1993年1月4日から2012年12月28日までの日付と対になった上昇率(騰落率)データが格納されました。
19930104 0.00414
19930105 -0.008944
19930106 -0.003563
19930107 -0.000119
19930108 -0.008701
:
(中略)
:
20121221 -0.008973
20121225 0.01408
20121226 0.01488
20121227 0.0088
20121228 0.00678
バレンタイン効果を調べる
バレンタインデーの上昇率を計算するには、nikkei.datファイルの中から日付の下4桁が0214のデータを抜き出して、勝率を求めればよいことになります。下4桁は10000で割った余りで表現できます。では、計算してみましょう。
214 -0.026563
214 -0.009556
214 0.0077
214 0.00214
214 -0.008118
214 0.00075
214 0.01205
214 0.01281
214 0.00693
214 0.01953
214 0.00738
214 0.04288
214 0.01132
214 0.00667
20年間遡って、2月14日に立会日があった日を集計すると全部で14回です。そのうち上昇した日が11回なので、11/14の実に78%の確率で上昇しています。
冒頭の話では10年連続で上がっているとなっていましたが、正確には2013年初から遡って9回連続です。2月14日が立会日でない日もありますから、株売買のない日も含めて10年ということのようですね。
ついでに、2月14日の上昇率(騰落率)の基本統計量も計算しておきましょう。
>rpn x _ -c statinfo <tmp
デ ー タ 14
最 小 値 -0.026563
最 大 値 0.04288
範 囲 0.069443
合 計 値(Σ) 0.085923
平 均 値(μ) 0.00613736
分 散 値(σ2) 0.000228888
標準偏差(σ) 0.0151291
分 散 値(s2) 0.000246495
標準偏差(s) 0.0157002
歪度(a3≒0) 0.220829
尖度(a4≒3) 4.23356
変動係数(ν) 2.55813
平均では0.6%の上昇が見込めるようです。ただ、標準偏差が1.5%ありますから、バラつきは大きくなります。約70%の確率で-0.9%~2.1%の株価上昇を期待できます。
次に直近14回(20年分)のバレンタインデーの騰落率をパーセントでグラフ表示しておきます。
>rpn x _ 1 -c rownum <tmp | rpn 100 * | xyp -x,14 -y-5,5 -s1,2.5 -n -m
^y 5
| *
|
|
2.5
| *
| * * * * * * *
| * * 14
+-1--2--3--4--5--6-7--8--9--10-11-12-13>
|o * * x
|
| *
-2.5
|
|
|-5
横軸が過去14回分で縦軸が騰落率です。アノマリーがあると見るかどうか微妙なところですが、14回コインを投げて11回以上表が出る確率は2.87%なのですから、希なことが起きていると判断することはできます。
ホワイト効果を調べる
ちなみにホワイトデーはどうでしょう。バレンタイン効果があるならホワイト効果もあるかもしれません。
同じように気分が浮き立って株価は上昇するのでしょうか。20年間遡って検証してみます。方法はバレンタインデーと同じです。
314 0.02043
314 -0.01408
314 0.00963
314 0.00112
314 -0.002086
314 0.00254
314 0.01315
314 0.01703
314 -0.005872
314 -0.007946
314 -0.029121
314 -0.015286
314 -0.061463
314 0.01618
3月14日に立会日があるのは同じ14回です。そして、気になる株価上昇の勝率は7/14で50%です。バレンタインデーに比べるとずいぶん見劣りしますね。グラフにバレンタインデーとホワイトデーの騰落率を一緒に描いておきます。
計算するとわかりますが、バレンタインデーとホワイトデーの14回分は年も一致しています。>rpn x 10000 % x <nikkei.dat | rpn 214 214 -c lookup >214
>rpn x 10000 % x <nikkei.dat | rpn 314 314 -c lookup >314
>paste 214 314 | rpn #b _ #a _ @a 100 * @b 100 * 1 -c rownum >tmp
>xyp -x,14 -y-5,5 -s1,2.5 -n -k2 -m <tmp
^y 5
| *
|
|
2.+
| + * +
| + + * * * * *
| + + 14
+-1--2--3--4-+5--6-7--8--+--10-11-12-13>
|o * * + x
| + +
| *
-2.5 +
|
|
|-5
"*"がバレンタインデーで"+"がホワイトデーですが、妙にアベコベの感じがしませんか。真逆になっているような…。そこで、相関係数を調べてみます。
-0.280427
サンプル数が14しかないので信頼性は劣りますが、弱い逆相関になっていますね。強引に結論付けるなら、バレンタイン効果があるときはホワイト効果はなく、バレンタイン効果がないときにはホワイト効果があるということになります。
バレンタインデーとホワイトデーは相思相愛にはならないようです。
次は…
バレンタインデーに株価が上がる傾向のあることがデータから見えてきました。ただし、上昇確率が78%あってもサンプル数の少なさから今ひとつ確証は持てません。
しかし、仮に株価が上昇する確率が90%を超える日があったらどうしますか。調べる原理は同じなので1年間で立会いのある日の全てを調べれば、過去20年間で最も勝率の高い日が計算できることになります。
果たして、そんな日があるのでしょうか。
rpnプログラムを実行するには、rpn試用版かrpn標準版が必要です(バージョンの違いはこちら)。
pasteは講座サポートで公開されています。rownum, rowdivはカンタン分析パッケージに同梱されています。lookupはユーティリティーパッケージに同梱されています。statinfoはrpnマイスターパッケージに同梱されています。rはビジネス統計(単回帰編)に同梱されています。xypとnpdはrpnの姉妹ソフトウェアです。詳しくはプロダクトを参照ください。