経営分析で株価を予想 part2
企業の循環性を採点
次は企業の循環性を見てみましょう。前ページと同様に対話型のプログラムの例は以下のようになります。
rpn [総資本 売上高 仕入高 売上債権 買入債務] -c ana-cycl <stdin
総資本=1301
売上高=2781
仕入高=2756
売上債権=406
買入債務=589
=========
支払回収回転比率(0.8~1.3[1.0])⇒1.4
資本回転率(0.3~2回)⇒2.1回
採点⇒100点
総資本は貸借対照表(B/S)から、売上高と仕入高は損益清算書(P/L)から転記します。なお、売掛債務は受取手形と売掛金の合計、買入債務は支払手形と買掛金の合計です。より正確な計算のためには総資本から株式等の有価証券分を省きます。また、仕入高に外注費(製造原価明細書)も加えます。
コマンドラインの場合は総資本、売上高、仕入高、売上債権、買入債務の順に指定します。
1.4639 2.13759 100
企業の成長性を採点
最後に企業の成長性を採点します。対話型のプログラムの例は以下です。
rpn [今期売上高 前期売上高 今期自己資本 前期自己資本] -c ana-grow <stdin
今期売上高=2781
前期売上高=3562
今期自己資本=672
前期自己資本=735
=============
売上高増加率(0~25%[経済成長率])⇒-22%
自己資本増加率(0~25%[経済成長率])⇒-8.6%
採点⇒0点
2期分の決算書を用意して、今期と前期の売上高を損益計算書(P/L)から、今期と前期の自己資本を貸借対照表(B/S)から転記します。
コマンドラインの場合は今期売上高、前期売上高、今期自己資本、前期自己資本の順に指定します。
-0.219259 -0.0857143 0
企業の全体採点
安全性、収益性、循環性、成長性の各点数を合計して、平均します。60点以上で優秀企業(S)です。50~60点で優良企業(A)、40~50点で普通企業(B)、30~40点なら停滞企業(C)、30点未満なら破産企業(D)に区分されます。例として使った企業の採点をしてみましょう。
33.25
33点なので、ランクCの停滞企業になりますね。何らかの対策が必要です。
安全性の中で特に流動比率が悪い様子です。平均からは程遠い姿で、抜本的な改善が必要でしょう。営業利益率は1%を割り込み、収益性もあまりよくありませんし、資本の回転も低調です。仕入や販管費の見直しも必要かもしれません。循環性に関しては100点満点なのですが、今期マイナス成長であり、売上高が20%以上もの低下です。ビジネス自体のトレンド変化を感じさせます。
実際の優良企業を採点してみると…
本記事の企業採点方法は簡易的なものなので、企業の状況を適切に表しているか、今一度、別の企業で確認してみましょう。確認対象は日本の優良企業の代表であるトヨタ自動車にしてみます。
リーマンショック、プリウスのブレーキ問題、東日本大震災と災難が続いていますが、以下の例はそれ以前の元気な時代のトヨタ自動車です。
2008年(平成20年)3月のトヨタ自動車の決算書を使用(自動車部門と金融部門の連結)。収益性、循環性の総資産は投資等の資産を除いた分です。また、循環性の仕入高に製造原価明細書の外注費は考慮してありません。
以下に安全性、収益性、循環性、成長性の採点を対話型プログラムで計算していきます。金額は10億円単位です。
安全性
>rpn -c null | rpn -c ana-saferpn [総資本 自己資本 流動資産 流動負債] -c ana-safe <stdin
総資本=32458
自己資本=11869
流動資産=12086
流動負債=11940
=========
自己資本比率(5~60%[40%])⇒36.5%
流動比率(110~180%[130%])⇒101.2%
採点⇒36点
収益性
>rpn -c null | rpn -c ana-profrpn [総資本 売上高 営業利益] -c ana-prof <stdin
総資本=25873
売上高=26289
営業利益=2270
=========
売上高営業利益率(2~12%[7%])⇒8.6%
資本営業利益率(0~10%[7%])⇒8.7%
採点⇒82点
循環性
>rpn -c null | rpn -c ana-cyclrpn [総資本 売上高 仕入高 売上債権 買入債務] -c ana-cycl <stdin
総資本=25873
売上高=26289
仕入高=20452
売上債権=2040
買入債務=2212
=========
支払回収回転比率(0.8~1.3[1.0])⇒1.3
資本回転率(0.3~2回)⇒1回
採点⇒80点
成長性
>rpn -c null | rpn -c ana-growrpn [今期売上高 前期売上高 今期自己資本 前期自己資本] -c ana-grow <stdin
今期売上高=26289
前期売上高=23948
今期自己資本=11869
前期自己資本=11836
=============
売上高増加率(0~25%[経済成長率])⇒9.7%
自己資本増加率(0~25%[経済成長率])⇒0.2%
採点⇒30点
採点結果をメモしてもいいのですが、数値を再利用するにはコマンドラインで計算するほうが楽です。コマンドで一気に処理すると以下のようになります。
>rpn 25873 26289 2270 -c ana-prof >>tmp
>rpn 25873 26289 20452 2040 2212 -c ana-cycl >>tmp
>rpn 26289 23948 11869 11836 -c ana-grow >>tmp
tmpファイルに計算結果が格納されているはずなので、確認してみましょう。
0.365673 1.01223 36
0.0863479 0.0877363 82
1.39378 1.01608 80
0.0977535 0.0027881 30
最後の数値を以下のrpn式で平均すると企業全体の採点になります。
57
ついでに、4つの指標の採点結果をグラフにしてみましょう。
^y 100
|
| *
- *
|
|
|
- 50 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
|
| *
| *
-
|
| x
|o 4
+--------|---------|---------|--------->
安全性 収益性 循環性 成長性
全指標の平均が横に走る破線の50点を超えると優良企業です。安全性と成長性がちょっと落ちますが、収益性、循環性とも問題ない感じです。
単なるプロットグラフでは分かりづらいので、採点結果をより良く整形してみましょう。ana-dispプログラムに先ほどのtmpファイルを読み込ませると棒グラフで表示してくれます。
トヨタ自動車の採点
+-- --+
| 安全性 収益性 循環性 成長性 平 均 |
| ====== ====== ====== ====== ====== |
| 36 82 80 30 57 |
+-- --+
00 20 40 60 80 100
| : | : | : | : | : |
安全性 ロロロロロロロロロロロロロロロロロロ
収益性 ロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ
循環性 ロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ
成長性 ロロロロロロロロロロロロロロロ
----------------------------------------------------------
合 計 ロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ
| : | : | : | : | : |
00 20 40 60 80 100
破産 <-- |停滞|普通|優良| --> 優秀
(D) (C) (B) (A) (S)
この方が分かりやすいですね。流石はトヨタ自動車です。Aランクの優良企業で、あと3点でSクラスです。流動比率と自己資本増加率の改善を行なえば余裕で達成できそうです。
ついでに、同じように先ほどの低調な企業を表示してみましょう。
| 安全性 収益性 循環性 成長性 平 均 |
| ====== ====== ====== ====== ====== |
| 24 9 100 0 33 |
+-- --+
00 20 40 60 80 100
| : | : | : | : | : |
安全性 ロロロロロロロロロロロロ
収益性 ロロロロ
循環性 ロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ
成長性
----------------------------------------------------------
合 計 ロロロロロロロロロロロロロロロロ
| : | : | : | : | : |
00 20 40 60 80 100
破産 <-- |停滞|普通|優良| --> 優秀
(D) (C) (B) (A) (S)
赤字決算だったのが全体の採点を低くしています。収益性も低く、アンバランスというか、やはりトヨタ自動車と比べると見劣りすることが一目で分かります。
経営分析で株価予想?
株式投資する際に参考にする指標にPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)、ROE(株主資本利益率)があります。それぞれの計算式は以下のとおりです。
PER(株価収益率) = ------ PBR(株価純資産倍率) = --------
利益 自己資本
PBR 利益
ROE(株主資本利益率) = ----- = --------
PER 自己資本
これらの指標を使って、割安な銘柄や成長性の高い銘柄を選び、株式投資するわけなのですが、上の例で経営分析した企業のそれぞれの値はどうなっているのでしょうか。
主にPBRを使うのが割安株投資(バリュー投資)で、PERを使うのが成長株投資(グロース投資)です。PERでも平均と比べれば割安銘柄を探せます。
2008年3月末日のトヨタ自動車の株価は4970円でした。当時の発行済株式数は約36億株です。決算書からの数値からPER、PBR、ROEを計算してみます。
7.88194 1.50746 0.191255
順にPER、PBR、ROEになります。計算の根拠となる利益に当期純利益を使わずに営業利益を使ったのでPERは低めに出ていますが、まあまあ妥当な感じでしょう。
PBRは1.5で問題ありませんし、ROEも19%で平均より上です。当時、東証一部の平均PERは23~24倍とのことでしたから、トヨタ自動車にして、ずいぶん低い期待値だったことになります。
PERは14~20が適正とされています。PBRは1.0以上が当然なのですが、解散価値の方が株価を上回ると1.0を下回ります。東証一部ではPBRの平均は1.5前後です。従って、ROEの平均は15%になります。
ちなみに例題で示した停滞企業ですが、当時の決算時の株価は391円で、発行済株式数は約32億株でした。同じように計算してみましょう。
7.88194 1.50746 0.191255
PERがとても高いことが分かります。成長著しい新興企業の場合は高いPERでも許容されますが、経営分析した際の利益率の低調さを考えると、そうでないことは一目瞭然です(実際の企業価値よりも株価が高すぎる可能性がある)。また、PBRが1.0を割っています。経営するより会社を解散したほうが株主への還元が多くなるという困った状態であることがわかります。
概ね、経営分析した点数と株式投資に使う指標は呼応しているようですね。
株価は企業への期待の現われです。企業の状態を見極めた上で株式が買われているのなら、経営分析による企業採点数とPBR、PERは相関関係になる可能性があります。
すると、何百社分のデータを収集していけば企業採点からあるべきPBRとPERが回帰式として導き出されるかもしれません。そうなれば決算書の利益と自己資本の値を式に当てはめることで、理論的な株価を計算することができます。
- その理論的な株価と現在の株価に乖離があったら…。
- つまり、理論株価が高く、現在株価が低かったら…。
あとは証券会社に口座を開いて、大胆に全力買いの一手でしょう。もちろん自己責任であることは言うまでもありません。
rpnプログラムを実行するには、rpn試用版かrpn標準版が必要です(バージョンの違いはこちら)。
rownumはカンタン分析パッケージに同梱されています。xypとnpdはrpnの姉妹ソフトウェアです。詳しくはプロダクトを参照ください。