ライフゲームから生命誕生(前編)
時は第二次世界大戦中。数学者のスタニスワフ・ウラムはコンピュータに与えたルールに従って変化するパターンの研究を行なっていました。同じ頃、フォン・ノイマンは自己複製する機械に関する研究を行なっていました。機械は自分と同じ機械を作れるか。機械は自分より複雑な機械を作れるかなど天才にしか思い浮かばないような深遠なテーマです。自己複製は生命である条件の1つなのですから、仮に機械にそれができるなら…。
初めは回路や論理図を基準に考えていたノイマンですが、ウラムの助言から仮想的な二次元の世界での研究に移行します。この研究分野がその後のセルオートマトンになります。果たして、単純さから複雑さを生み出すことができるのか…。結局、自己複製機械が作れることをノイマンは証明します。そして、機械が自分より複雑な機械を作れることもです(あくまで論理的にはですが)。
それから、約30年経過した1970年にコンウェイが発表したライフゲームは、世界的な流行を巻き起こしました。当然、ノイマンとウラムによるセルオートマトンの研究にその発想をおいています。
ライフゲームは2つの状態を持つ二次元のセルオートマトンです。
ライフゲームの単純なルール
若き数学者コンウェイはパターンの予測が困難で無限に増殖する可能性のあるセルオートマトンのルールを考えていました。試行錯誤の結果、以下の単純なルールを策定します。最小3×3のマトリクスを想像してください。
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中央のセルを生物のいる場所と考えて、生存していれば(占有していれば)■、死んでいれば(空いていれば)□とします。そして、周囲8箇所の生物の数を調べて、以下のルールを適用します。
周りの8セルのことをムーア近傍といいます。ちなみに斜めを無視する4セルはノイマン近傍といいます。
- 中央のセルが生存していて、周りに2もしくは3の生物がいれば次世代も生き残る。
- 中央のセルが空で、周りに3の生物がいれば次世代に新しく生物が誕生する。
- それ以外の条件では、中央のセルは死滅する。
たった、これだけのルールで混沌の海に生物が生まれたのと同じように、多種多様で予測困難な複雑なパターンが生み出されるのです。
分かりやすいルール説明は応用コーナーのライフゲームのルールに詳しくあります。
ライフゲームで出現するパターン
ライフゲームが発表されてから沢山の人がこのゲームに没頭して、徐々にその概要が分かってきました。特にコンウェイとその仲間が研究を推し進めたのですが、それぞれのセルのパターン(物体ともいう)にはいくつの型があることが判明します。
まず固定型の物体ですが、これは世代が変わっても変化しません。対して、変動型の物体は変化しますが、いずれ同じパターンに戻ってくる周期性のあるものです。移動型はちょっと変わっていて、物体がマトリクスを横断します。最後に繁殖型ですが、徐々にセル数を増やしていきます。つまり、無限に増殖する可能性があるわけです。以下に型とパターンに付けられた名前を示します。
振動型 |
ブリンカー、ひき蛙、ビーコン、時計、ペンタデカソロン、…
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固定型 |
ブロック、タブ、小船、船、蛇、蜂の巣、イーター、池、…
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移動型 |
グライダー、宇宙船、艦隊、シャトル、…
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繁殖型 |
グライダー銃、シュシュポッポ機関車、ブリーダー、…
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これらの型以外にもライフゲームではたくさんのパターンが発見されました。そのうちの1つはたった7つのセルが5206世代も変化を続け、最大で1057セルにも膨れ上がるものも発見されています。それは以下のパターンでドングリと呼ばれています。
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パターンにはそれぞれ特徴を捉えた名前が付けられています。パターン形状が特定の物体に似ている、あるいはパターンの動きが特定の行為に似ている等の理由でネーミングされています。それでは、基本形からはじめて、特徴のあるパターンの動きなどを示していきましょう。
「Tテトロミノ」は基本形
4つのセルの組合せです。対称形は省くので全部で5種類です。不安定な形で数世代変化します。
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テトリスの落下してくる物体と同じですね。
「Rペントミノ」は意外に多様
5つのセルの組合せです。全部で12種類あります。アルファベットの名前が付けられています。Rの調査中にグライダーが発見されましたが、比較的多くのセルに増殖します。
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R I J N P T
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U V W X Y Z
固定型物体の種類は無限
世代交代を続けると一定数の物体は、変化しない固定型になります。それぞれに名前は付けれられていますが、この固定物体の数は多く無限です。代表的なものだけ示しておきます。
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ブロック タブ 小船 船 バージ
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蛇 蜂の巣 ローフ イーター 池
振動型物体は繰り返す
振動型はパターンが変化しながらも結局は一定周期で元のパターンに戻る物体です。単純な形から複雑な形まで発見されています。速いコンピュータでライフゲームを動かすと本当に回転しているように見えたり、瞬いているように見えたりします。
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ブリンカー ひき蛙 ビーコン 時計
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散髪屋の看板 フリップフロップ 銀河
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時計
次は…
ライフゲームが生まれたきっかけとゲームのルールを学びました。パターンには固定型物体、振動方物体がありましたが、実際にどんなふうにマトリクス内で変化するかを見ていきましょう。まずは振動型物体の銀河のきらめきからです。
rpnでライフゲームができます。本ウェブサイトの応用コーナーにライフゲームのルールがあります。興味のある人はrpnプログラムをダウンロードしてみてください。
rpnプログラムを実行するには、rpn試用版かrpn標準版が必要です(バージョンの違いはこちら)。