100年に1度の金融危機 part2
これでtmpファイルに全てのデータが揃いました。暴落の名称ごとに、それぞれの計算結果を表示してみます。上から順にITバブル崩壊、911テロ、ライブドアショック、リーマンショックです。
0.0261498 0.0169031 19080 16000
0.0244886 0.0128914 10880 9500
0.0174102 0.00871755 16740 15340
0.0479844 0.0322506 12110 7162
破壊的だったリーマンショック
リーマンショック、ITバブル崩壊、911テロ、ライブドアショックの順に変動率が高いですね。リーマンショックに至っては4.8%の変動率です。日中の値動きが日経平均株価の5%に迫る平均値なのですから、異常状態です。ITバブル崩壊や911テロの2.5%の実に2倍です。
これはあくまでも30日間の変動率の平均値なので、実際の変動率は日によって平均より大きかったり小さかったりします。目安として標準偏差を使用すると変動の度合いが分かります。例として1σという変動の区切りで見てみましょう(変動率がガウス分布に従うと仮定)。
ガウス分布については、ビジネス統計(基礎編)にあります。分布を使った推定や検定に関してはビジネス統計(推定編)、ビジネス統計(検定編)に詳しくあります。
ITバブル崩壊時には2.6%±1.7%です。つまり、任意の一日を取ってみると大体70%の確率で0.9%~4.3%の変動率であることを示しています。911テロはそれよりちょっと少ない感じですね。それに比べるとライブドアショックは日経平均としては、暴落度合いが軽かったことになります。
対してリーマンショックは4.8%±3.2%です。つまり、70%の確率で一日の変動が1.6%~8.0%あることを示します。リーマンショック時は荒波状態だったようです。実際、リーマンショック時の最大変動率は11.2%でした。一日で株価の10%以上が動く(下落)するのですから、今まででは考えられない値動きだったわけです。
暴落期間の下落率
次に暴落期間中の下落率を計算してみましょう。下落率は最安値÷最高値にしています。
0.0261498 0.0169031 19080 16000 -0.161426
0.0244886 0.0128914 10880 9500 -0.126838
0.0174102 0.00871755 16740 15340 -0.083632
0.0479844 0.0322506 12110 7162 -0.408588
最大は40.8%の下落率です。リーマンショックの凄まじさが分かります。たった30日で日経平均構成銘柄の時価総額が4割吹っ飛びました。リーマンショックに比べればITバブル崩壊や911テロは16.1%と12.7%と小さく見えます。ましてやライブドアショックは8.3%と霞んで見えます。
以下にグラフ化してみます。縦軸が下落率になります。数値で感じる以上に下落の激しさが分かりますね。暴落とは話が少しずれますが、通常20%の下落でトレンド転換と考えますから、リーマンショックでは一発で転換です。
>rpn @n 1 + #n @n x <tmp2 | xyp -x1,4 -y-.5,0 -s,.1 -n | npd
+-------------------------------------------->
|
| *
-0.1 * ライブドア
| * 911テロ ショック
| ITバブル
-0.2 崩壊
|
|
-0.3
|
|
-0.4 *
| リーマン
| ショック
-0.5
起こりえない確率が発生
ところで、これらの変動率は通常の値動きから見るとどのくらいの違いなのでしょうか。ここではITバブル崩壊の30日前からリーマンショックの30日後までを期間として、変動率の平均と標準偏差、最小値、最大値、下落率を求めてみました。暴落時の値動きも含まれてしまいますが、全部で2132日あるのである程度は均されるでしょうから、この値を通常の状態としてみます。
>rpn _ #c #l #h _ _ @h @l - @c / <n0.txt | rpn -c mean
0.0155451
>rpn _ #c #l #h _ _ @h @l - @c / <n0.txt | rpn -c sdev
0.0095988
>rpn _ #c #l #h _ _ @c <n0.txt | rpn -c max
20830
>rpn _ #c #l #h _ _ @c <n0.txt | rpn -c min
7162
>rpn 7162 20830 / 1 -
-0.656169
以下に計算結果を表にしてまとめておきます。
========== ========= ========== ====== ====== =========
ITバブル 0.0261498 0.0169031 19080 16000 -0.161426
911テロ 0.0244886 0.0128914 10880 9500 -0.126838
ライブドア 0.0174102 0.00871755 16740 15340 -0.083632
リーマン 0.0479844 0.0322506 12110 7162 -0.408588
========== ========= ========== ====== ====== =========
全期間 0.0155451 0.0095988 20830 7162 -0.656169
全期間の変動率は1.6%です。平均で株価は1.6%しか動かないことになります。そして標準偏差を見ると分かりますが、0.96%です。つまり70%の確率で一日の変動は0.64%~2.56%にあると言えます。変動率から見ると、通常の株式市場はほとんどは穏やかな凪状態にあるようです。
通常の値動きから考えて、リーマンショックの最大変動率が発生する確率式は次になります。
計算してみると分かりますが、nは10くらいです。標準正規分布で計算すると確率は実に7.6946e-23。つまり、0.000000000000000000000076946の確率です。
なんと、宇宙が誕生した瞬間から株式市場が毎日開いていたとしても発生しない確率ということになりますね。合理的に考えれば株価の変動率はガウス分布に従わないと考えたほうがいいようです。
いずれにしても、二度とリーマンショックのような変動が起こらないことを祈りたいものです。
番外編:史上最悪の株式市場大暴落
株式市場の大暴落と言えば、1929年10月28日(月)と29日(火)に起こったウォール街大暴落が有名です。たった3日でダウジョーンズ工業株平均が23%も下がりました(298.97→260.64→230.07)。そして、2週間後に一時的な底値198.60を打ちます(33%の下落)。
1920年代はバブル経済を謳歌しており、暴落直前は株投資ブームの真っ只中でした。大暴落のきっかけはFRB(米連邦準備理事会)による金融政策の引き締めですが、ウォール街大暴落はその後の世界恐慌の引き金になったとも言われています。
半年後、294.07という戻り高値があったものの(一時的な底値から48%の上昇)、それはデッド・キャット・バウンスに過ぎず、その後は長期的な下落を続けました。大底は3年後の1932年7月8日の41.22で、実に下落率は86%に達しています。
1929年9月3日の最高値381.17から考えれば、10月28日前の段階で21%下落しています。大底までなら88%の下落率です。
デッド・キャット・バウンス:高いところから落ちると死んだ猫でも跳ね返るという意味。大幅な株価下落後に起こる一時的な回復のこと(1929年のケースは結構戻った)。
今回検証した暴落から30日間に限定する方法であれば、ウォール街大暴落よりもリーマンショックの方が上回ります。しかし、大底までとなると足元にも及びません(リーマンショックが40%に対してウォール街大暴落は86%)。
経済の循環は、①不況・低金利・株価低迷→②景気回復・金利上昇・株価上昇→③好況・高金利・株価高→④景気後退・金利下落・株価下落のサイクルを描きますが、その過程で量的緩和政策による市場のへのマネー供給、各種のバブル化。そして引き締め後に暴落が起こります。
バブルの年率
バブル期に投資すれば必ず儲かる気がします。通常、平均7%と言われる株式市場も2000年のITバブルで20%、1980年代後半のバブル景気で50%、1970年代初めには70%など考えられない年率になります。しかし、2008年に巨額詐欺事件を起こしたバーナード・マドフですら、顧客に提示した年率は12%でした。株式運用ではありませんが、年率10%以上を2~3%の標準偏差で運用していたので、平均10%で標準偏差2.5%とすると95%の確率で+5%から+15%の年率になります。実態は預かった資金を配当する自転車操業だったのですが、1989年にファンドが設立されてから2008年の逮捕まで20年間も顧客を騙し通しました。詐欺ですら年率は10%ちょっとなのです。バブルは必ずいつか弾けます。そのときのマイナス年率は本文のとおりです。くれぐれもご注意を。
rpnプログラムを実行するには、rpn試用版かrpn標準版が必要です(バージョンの違いはこちら)。
fold, lookupはユーティリティパッケージに同梱されています。sdevはビジネス統計(基礎編)に同梱されています。xypとnpdはrpnの姉妹ソフトウェアです。詳しくはプロダクトを参照ください。